資産形成

退職金への課税が見直される方向へ。退職所得控除などを詳しく説明。

退職金に対する課税は、「長く勤務した人ほど有利」「一時金方式での受け取りが有利」とされてきたところ、昨今の労働情勢を踏まえ、近い将来見直されることになりそう。
退職金課税を考える上で重要な「退職所得控除」について、具体的な金額で検証。
さらに退職所得控除をフル活用できる、知っておくべき「5年ルール」をご紹介。

こんにちわ!まーこ(@maakomoneydiary)です。

今回の記事のテーマは「退職金に対する課税」です。

そもそも退職金って税金がかかるんですか?
退職金の課税を見直すってニュースを見たけど、よくわからなかったわ…
まーこ
まーこ
退職金の課税に関して、今後見直される方向ですが、まず現行の制度を見てみましょう。また、知っておくべき「5年ルール」も説明いたします。

 

はじめに結論をお伝えいたします。

結論

●2020年12月、「令和3年度税制改正の大綱」で、退職金課税を見直す議論が行われました。
●退職金課税については、「長く勤務した人ほど有利」「一時金方式での受け取りが有利」とされてきたところ、昨今の労働情勢を踏まえ、近い将来見直されることになります。
●退職金については、退職所得控除をフル活用できる、知っておくべき「5年ルール」というものが存在します。

 

 

1 退職金の課税をめぐる動き

定年退職、自主退職などでもらう退職金は、「退職所得」として課税対象となります。
そんな中、2020年12月に発表された「令和3年度税制改正の大綱」で「退職所得課税の適正化」という項目が盛り込まれました。

その「退職所得課税の適正化」の内容は、特定の役職員だけでなく従業員に対しても短期間の退職金に制限を設けるとするものです。
一部の企業が、ヘッドハンティングに際して、税金対策として給与を低くする一方で退職金を高くする方策を取っていることが問題視されていました。
これを是正するために、勤務年数5年以下の従業員に関する退職金について、300万円を超える部分については2分の1課税を廃止し、課税を強化するものです。
この点は、勤続5年以下で300万円を超える退職金が発生するケースがそもそも少ないため、関係する人が少なく、私自身もあまり問題とはとらえていません。

こうした決定事項ではなく、むしろ検討課題とされた①終身雇用を前提とした勤続期間が長い人に有利な税制、②一時金受け取り方式への偏りの方が重要と考えます。
これら2点が変更されると、退職金の課税が変化するため、現行制度からしっかり確認していきましょう。

「税制改正」の大まかなイメージです。

決定事項>
●短期間の退職金に制限を設ける
(あまり関係なし)
<検討課題>
●長期間勤務に有利、転職者に不利な退職金の課税を見直す
●税制上有利な一時金受け取り方式を見直す
(こっちが重要)

 

退職金に対する課税(計算式)

退職金への課税は、他の課税よりも特徴的であり「かなり優遇されている」というイメージです。

退職所得の計算式は、次のとおりです。
(退職金-「退職所得控除額」)×1/2=退職所得
この式で算出された右項の退職所得に所得税が課されることになります。

「退職所得控除額」については、勤続年数20年を境に次のように区別されています。

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円×勤続年数
20年超 800万円+70万円(勤続年数-20年)

もらった退職金そのものに課税されるわけではなく、①退職所得控除額で差し引き、②さらに1/2(半分)にすることで退職所得を小さくでき、課税額もおさえることができるのです。

例えば、大学を卒業して22歳で企業に就職して60歳で定年退職をした人(勤続年数38年)は、退職所得控除額が2.060万円(800+70×(38-20)=2.060)となります。
つまり、退職金が2.060万円以下なら非課税(税金がかからない)で受け取れるということです。

2.000万円以上を受け取っても税金がかからない、というケースはまれで(居住用財産を譲渡した場合の3.000万円の特別控除など)、かなり優遇された税制と言えます。

 

 

2 税制改正で検討課題とされたこと

検討課題①転職者に不利な税制改正

上記の計算式からわかるように退職所得控除額は、勤続年数が長い人ほど大きくなります
そのため、同じ会社に長く勤務していた人ほど有利、つまり終身雇用を前提とした制度と言うことができます。
一方で、2019年5月にトヨタ自動車の豊田社長が「終身雇用の維持は難しい」と発言するなど、経営者が終身雇用に難色を示す発言が相次ぎました。
これに加え、成果主義の台頭、ITの進化による働き方の変化などによって、終身雇用の形態は変わりつつあります。

こうした中、税制改正では「働き方で損得が出るのは避けなければならない」などとして、検討課題とされました。

<具体例>
退職所得控除額:
①1つの企業に38年勤務した人:
800万円+(38年-20年)×70万円=2.060万円
②1つの企業ではなく、2つの企業にそれぞれ19年ずつ勤務した人
<勤続年数20年以下の計算式に当てはめ>
40万円×19年=760万円×2企業
仮にこの人が2.000万円(②の場合はそれぞれ1.000万円ずつ)の退職金をもらった場合、①の場合は非課税、②の場合は12万円の税金が課せられます。

このように、現行制度では1つの企業に長く勤務した場合に有利に働き、転職を繰り返して短期間で複数の企業に勤務した場合には不利に働くため、今後見直される方向となっています。

検討課題②一時金方式に偏る受け取り方

退職金は、まとめて受け取る「一時金方式」と毎月少しずつ受け取る「年金方式」の2つに大別できます(一時金と年金の併用もあります)。
「年金方式」では、一時金方式の退職所得とは異なり、「雑所得」として課税されます(総合課税、源泉徴収)。
また、ほかの公的年金と合算して、公的年金等控除額を超えた部分が課税さた部分が課税される。
60~64歳までなら70万円、65歳までなら120万円というのが公的年金等控除額になります。つまり、この控除額までなら所得税や住民税はかかりません。

現状では、次にまとめたとおり「一時金方式」の方が税制面で有利に働きます。
そのため、大半の人は「年金方式」ではなく、「一時金方式」を選択しています。

一時金方式
(まとめて受け取る)
●分離課税:ほかの給与所得などと合わせずに課税される。課税所得は低くおさえることができ、税率も低くなる傾向。
●国民健康保険料や社会保険料はかからない
年金方式
(毎月一定額を受け取る)
●総合課税:ほかの給与所得などと合わせて課税されるため、課税所得が高くなる場合があり、税率も高くなる傾向。
●ほかの所得と合わせた場合、国民健康保険料などが高くなるケースも。
●受け取るまでに会社側が一定の利率で運用を続けるため(利率1.2~3%)、総受給額は一時金よりも多くはなる。


こうした中、税制改正では「退職後の生活設計が、税制で左右されない仕組みに改めるべきだ」などと検討課題とされました。

<具体例>
勤続38年の人が退職金2.000万円を受け取った場合。
①「一時金方式」=非課税
②「年金方式」=65歳から15年にわたって受け取る場合(利率1.5%)
年間約17万円が課税され、15年間で約260万円の税負担となる。

このように、「年金方式」の方が税負担が重く、「一時金方式」での受け取りに偏る傾向であるため、今後見直される見通しです。

3 知っておきたい5年ルール

5年ルールとは?

退職金の受け取りに際して、「退職金の5年ルール」というものが存在します。
会社からの退職金だけでなく、iDeCo(個人型確定拠出年金)の受け取りや生命保険からの退職一時金など、複数の退職金をもらうケースがあります。
その際に「4年以内に他から受け取った退職金が存在する場合、勤続年数の重複している期間を退職金控除に含まない」というものです。
わかりやすく言うと、「他の退職金がある場合、5年以上空ければ、それぞれの退職金で退職所得控除をフル活用できる」というのが「5年ルール」になります。

ここで注意していただきたいのは、iDeCoの受け取りの場合はこの「5年ルール」は利用できず、15年空けないと退職所得控除をフルに活用できない「15年ルール」だという点です。
そのため「5年ルール」を活用したい場合、iDeCoを先に受け取って、その5年後に会社からの退職金を受け取ることで、退職所得控除をフルに活用でき、税金を少なくすることができます(iDeCoファーストとおさえましょう)。

退職金とiDeCoとの関係は、「【どっちがお得?】iDeCoの受け取りは一括or分割?退職所得控除との関係も」をご覧ください。

【どっちがお得?】iDeCoの受け取りは一括or分割?退職所得控除との関係もiDeCoの受け取りについて、「一時金」や「年金」などがあります。 大きな額を控除できる「一時金」での受け取りがお得になるケースが多いです。 お得なのかどうか、退職所得控除との関係が大事になってきます。 具体的なシミュレーションでわかりやすく説明していきます。...

確定申告での注意点

●「退職所得の受給に関する申告書」の提出を
 もし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出せずに会社を退職した場合、退職金から20.42%の税金が源泉徴収(天引き)されているため、確定申告で税金の還付を受けましょう。
最後にポイントをまとめます。

ポイント

●「令和3年度税制改正の大綱」で、退職金課税を見直す議論が行われました。
●退職金課税については、「長く勤務した人ほど有利」「一時金方式の方が有利」とされてきたところ、昨今の労働情勢を踏まえて見直される見通しです。
●退職金については、退職所得控除をフル活用できる、知っておくべき「5年ルール」というものが存在します。

 

まーこ
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